かつて好きだった人のまぼろしをみた。
というのは言い過ぎでただの人違いだった。嫌いな人を見間違えてはよく怯えるのに、会いたいと思うような人を見間違えるとは珍しい。しかしその人だったからと言って何かできようか。とうとうわたしもおかしくなったのかと思った。せっかくそういうことじゃないところを一生懸命やろうと思うのに。本当に淋しくてやってられない。思い出す事によって自分を守ろうと、そうしている事を認識させられるのがとてもやりきれない。そう、会ったのなんてだいぶ前だし、声だってずっと聞いてない。きっとわたしの事なんてあたまの片隅にさえない。わたしはちっとも一人じゃない。でもすごく寂しい。気持ちも届かない。